印度尼西亜の面影~Kabar dari Indonesia~

インドネシア在住6年目。ジョグジャカルタ特別州のガジャマダ大学大学院所属のどまぐれモンによるブログです。インドネシアとは、文化とは社会とは。宗教とは。無駄に色々考えてます。

ユダヤ教はインドネシアでは宗教でない⁉︎

インドネシアの宗教とは

大学院のWorld Religions(世界の諸宗教)の授業では様々な宗教について学んでいるんだけど、ユダヤ教についての授業で習ったインドネシアにおけるユダヤ教のポジションがとても興味深かったので簡単に紹介します。結論からいうとインドネシアではユダヤ教は宗教として認められてないです。

ユダヤ人の明確な定義はなく、人種、信仰、文化、身体的特徴など様々な尺度でいわゆるユダヤ人と規定しますが、ここでは一応ユダヤ教を積極的に信じているユダヤ人と自認している人々をユダヤ人とする定義で語ります。

 

まずインドネシアユダヤ教を紹介する前に、インドネシアにおける宗教とはなんぞやを簡単に説明します。

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インドネシアでは、国が定めた6つの宗教が存在し、全ての国民はこのどれかに所属しないといけません。

 

6つの宗教

イスラム教、キリスト教プロテスタントキリスト教カトリックヒンズー教、仏教、儒教

キリスト教を分けているところと、儒教を国として宗教として認めるのはなかなか面白い現象かなと思います。

2017年の宗教省データでは、

イスラム教 87.21%,

キリスト教 9.87%(プロテスタント 6.96%,カトリック 2.91%),

ヒンズー教 1.69%,

仏教 0.72%,

儒教 0.05%,

その他 0.50%となっています。

宗教分布は以下の通りです。

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(出典:https://en.wikipedia.org/wiki/Religion_in_Indonesia

そして、17歳以上が携帯を義務ずけられてるKTP(住民登録証)には、その人の宗教の所属を示す欄があり、6つの内1つの宗教が必ず記載されます。

KTPは様々な住民サービスに必須のものなので、さもなければ社会サービースへの利用が著しく制限されることになってしまいます。

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KTPの見本。赤枠が宗教の欄

ここら辺はググれば日本語でもすぐ出てくる話なのでさわりまでに。

あまり日本語で出ていない話だと以下の2つ。

 

1. 宗教の自由を憲法が保証している

インドネシアの宗教では6つの国定宗教が多く語られがちだけど、実は憲法は宗教の自由を保証している。

憲法29条第2項

「国家は,すべての国民がそれぞれの宗教を有し,その宗教及び信仰に従って礼拝を行う 自由を保障する。」

なんだ信仰の自由あるんじゃんと思いきや、そんな簡単な話でなく、第1項に紐付いた第2項な訳です。

憲法29条第1項

「国家は唯一神への信仰に基づく。」

 

ちなみにこの第2項は1965年の憲法改定時に追加された条項です。

ここで言う唯一信は、イスラムキリスト教などの一神教が言うところの神です。

仏教はそんな神とは神の概念違ったり、もしくは信じてないじゃん、と言う声が聞こえて来そうですが、基本的にはこの神の概念が一神教以外の宗教にも当てはめさせられます。儒教孔子の教えだし、仏教でいう神は一神教は違うのにも関わらずです。

この曖昧な「唯一神」の概念が政府の宗教定義の広範性をもたらすとともに、種々の問題も孕んでいることは明白です。

ヒンズー教など何千という神が本来いるはずなのに、インドネシア独立後、バリヒンズーは公式にはこの概念にヒンズー教を落とし込もうとします。

(これも面白い話だけど、ややこしいの記事にできるか不明)

 

インドネシアでの宗教の自由は、国是であるパンチャシラと憲法に規定された唯一神にそぐわない限りーーの範囲内での自由です。

なんで、日本で言うところの宗教の自由とは根本的に違うのがミソ。

 

2. 新たな宗教概念の追加

2017年11月の憲法裁判所の判決でKTPの宗教欄に国定6つの宗教以外の表記も認めるべしとされ、その影響で既に新たな宗教を記載したKTPが多く発行されたとのこと。

新たな宗教とは、「Penghayat Kepercayaan(宗教的信仰のある人)」と言うなんともモサっとした概念だが、これは土着のアニミズムなど伝統宗教、土着信仰に対する配慮だと考えられている。上の宗教分布でいう「その他」に当てはまる人々のことでしょう。

これはこれで非常に面白い話なのでまた一つの記事にします!(きっと、おそらく。)


インドネシアでのユダヤ教の位置づけ

 はい、ここで話の本筋に戻ると、ユダヤ教ですね。

そう、インドネシアではユダヤ教は宗教として認められていないのです。

世界の5大宗教(仏教、キリスト教イスラム教、ユダヤ教ヒンドゥー教)に数えられることが多いユダヤ教がですよ。しかも、Penghayat Kepercayaanはあくまで土着信仰保護が目的の概念なので、ユダヤ教は一切関係なし。

しかも世界的にはイスラム教、キリスト教と並んんでアブラハムの宗教として認められており、いわばイスラム教、キリスト教の先輩宗教なのにです。

そしたらインドネシアユダヤ教徒はどうしたらいいねん、と言うことになりますね。

 

インドネシアにおけるユダヤ教

インドネシアには、主に大航海時代の17世紀頃にヨーロッパ、そして中東の商人を通して伝えられたといわれてます。

(その前からいたともされてますが、とりあえずこの説で)

オランダの東インド会社が現在のインドネシアを植民地支配してた時期には、多くのユダヤ人がおり、その多くが東インド会社の職員やその家族、末裔とのこと。

第1次〜第2次世界大戦次には、ナチスの迫害を恐れてインドネシアにも逃げ延びて来た人が多くおり、この時期ユダヤ人はおよそ2000人くらいいたとされてます。

ただ我らが日本のインドネシア占領時には、多くが収容所に収監されていたとのこと。

 

その後、1945年のインドネシア独立時には相当数がアメリカやオーストラリアに移住し、1948年のイスラエル建国後にはまた相当数がイスラエルに移住をしました。

現在のインドネシアでは、推定で約5000人のユダヤ人子孫がいて、そのうちユダヤ教を信奉しユダヤ人と自認している人は500人と推定されてます。

居住地域はかなり広範囲の散らばり、バンドン、ジョグジャカルタ、スラバヤ、メダン、マナド、パプアなどに離散している。

 

国定の宗教に認められていなため、おおっぴらに信仰を話すことは出来ないけど、武力で迫害されるといった酷い迫害はそこまでなかったよう。

ただこれも、イスラエルの建国とパレスチナへの迫害が契機となった中東戦争時には、インドネシア国内のユダヤ教への風当たりも強くなり、最近の2017年のトランプ米国大統領によるエルサレムイスラエルの首都として認定した事案が引き金になり、風当たりはますます強くなっているとのこと。

(大学の先生のこぼれ話では、インドネシアは現在までイスラエルと外交関係ないが、建国から1965年までのスカルノ政権時は表向きには反イスラムを掲げるイスラエルを敵視しながら実際には、イスラエル諜報機関モサドの拠点がジャカルタにもあったとか。冷戦時を睨んで綱渡りしてたんでしょうね。)

 

インドネシア国内にあるユダヤ教の礼拝所・シナゴーグは、北スラウェシ州マナド市にあるのみで、東ジャワ州スラバヤにあった2013年に襲撃を受け、破壊されてしまった。

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マナドのシナゴーグ。出典:AFP

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破壊されたスラバヤのシナゴーグ。出典:The New York Times

このように多くのインドネシアユダヤ人は、国からも社会からも阻害されて生きているようです。彼らの多くは、KTPの宗教欄の記載など公式にはキリスト教として登録されており、それが圧力を受ける社会で彼らが生きるすべの一つのようです。

 

ジョグジャ にもユダヤ人コミュニティがあるとのことで、いつか訪ねてみたいな。

 

マナドのユダヤ人コミュニティ

授業の予習で調べていたら、AFP日本語サイトがマナドのユダヤ教徒の生活をまとめたビデオをアップしていたので是非どうぞ。さすがAFPだわ。日本のメディアもこういう記事頼みますよ。

www.afpbb.com

こちらは写真と記事。日本語であるとは思わなかったわ。

www.afpbb.com

 

こちらは別の動画。音声が英語しかないですけど。


In Muslim Indonesia, tiny Jewish community lives on

 参考までにニューヨークタイムズの記事も。

www.nytimes.com

マナドでは、地元政府が観光誘致のためにユダヤ教の塔を建設したとあります。これはあまり調べられてないので、言及するまでに留めます。

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マナドのユダヤ教の塔。出典:The New York Times

 

マナドのユダヤコミュニティを訪問した大学の先生の話では、本来男性10人が集まり礼拝に臨むのが正式なユダヤ教の礼拝の仕方だけど、コミュニティが少ないため、ラインを使ってビデオチャットしながら礼拝や会議をするとのこと。デジタルがこんなとこにも力を笑

 

記事中ではいずれも、インドネシアにおける寛容の精神の低下とユダヤコミュニティへの圧力が強まっていることを嘆いた記事になってます。

ビデオ中で、UIN(国立イスラム大学)のIsmatu Ropi教授が「多くのインドネシア人は、インドネシアユダヤ教ユダヤ人のコミュニティ、シオニズムイスラエルを区別できません。」と説明してます。

日本人も持っているであろう、ユダヤ=金持ち、影の支配者、イスラエルイスラムを中東で弾圧ーーーといってイメージが先行し、土着化しているインドネシアユダヤ教を一括りに攻撃する傾向があるとしてます。

この話は、宗教の理解や、身近な宗教信者とテレビやネットの向こうの話を区別するリテラシーが必要になると思う。この先生の話は、インドネシアに限らず、イスラム嫌悪がある日本でも非常に重要な示唆だと考えます。

 

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