アジア大会開会式:大統領バイクパフォーマンスとインドネシア政治の潮流
第18回アジア競技大会ジャカルタ・パレンバンが8月18日、ジャカルタのブンカルノ競技場での開会式で幕を開けました。
ぎりぎりまで開会式チケットが引き換えられなかったり、相変わらずの運営ではありましたが、開会式自体はかなりインドネシアの特色を出していて、内外から好評を得ています。その開会式で話題になっているジョコウィ大統領のバイクパフォーマンスを見て感じたことを中心に少々書きます。
サバンからメラウケまで
開会式のパフォーマンスは各島、各地域の文化を反映させた出し物が行われ、インドネシアの多様性を象徴するものになっています。
まさにインドネシアの多様性を象徴する「Dari Sabang sampai Merauke」(西端のアチェ州サバン島から東端のパプア州メラウケまで)という言葉を表すように、各地域の伝統的な舞踊や古い物語をもとにした芝居なども披露され、観る者をかなり楽しませてくれました。
以下の動画は、開会式の冒頭で疲労されたアチェの伝統的舞踊の「サマン(Saman)」です。
大統領がバイクで疾走!
そして、なんといっても今回目を引いたのがジョコウィ大統領がバイクに乗ってブンカルノ競技場まで入場(したようにみせた仕掛け)したことです!
Aksi Keren Presiden Joko Widodo Meriahkan Opening Ceremony Asian Games 2018 - YouTube
ジャカルタから60㌔弱の南にある西ジャワ州ボゴール市の大統領宮殿を出発するジョコウィ大統領。
大統領ご用達の警護に守られて出発
しかし市内はアジア大会で盛り上がる市民で大混雑。
すると警護車のバイクにすかさず乗り換え、渋滞もダイブでかわすジョコウィ大統領
でも、学校前の横断歩道では子どもの歩行優先
そしてブンカルノ競技場に到着して
競技場内をぐるりと走行
そして裏口にまわってからーの
参列席に到着!
この仕掛けについてはメディアなどにも事前に情報が漏れないように最新の注意が払われていたようで、事前に大統領がこういったパフォーマンスを行うとは全然情報として出ていませんでした。
アジア大会の事前説明で、クリエイティブ・ディレクターのウィシュヌタマさんは開会式には「サプライズ」がある、とかたくなに内容を詳細に明かさなかった。約3万8千人の来場者や取材に臨んだメディア関係者らはおそらくその狙い通り、オートバイで登場したジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領に度肝を抜かされた。(じゃかるた新聞2018年8月20日紙面)
大統領オートバイで登場 開会式 大自然と多様性が共存 | じゃかるた新聞
本当に大統領が乗車していたのか?
次の日の地元紙やネットメディアでは、ジョコウィ大統領のパフォーマンスに関する記事がかなり目立ちました。
このパフォーマンスはもちろん全てジョコウィ大統領がやったわけではないです。
その証拠にジョコウィ大統領の左手の指輪が、高速道路でバイクにまたがりヘルメットを被った瞬間になくなっているとの分析をしたネチズンも。
いや、よく探すはこういうの。
実はこのパフォーマンス、タイ人のスタントマンを使って、8月上旬に撮影されたとの情報も出ています。
なぜタイの人だったかは謎ですが、スタントマンのインスタが発見されてその写真の構図が今回のパフォーマンスと同じだったとかなんとか。
二輪車乗車がジョコウィ大統領のアイコン
実際にどこまで大統領が乗車していたのかは定かではないですが、ジョコウィ大統領は元々バイク好き(もっと言うとパンクロック好き)で有名です。
また同氏が政治家として、活躍を始めた中部ジャワ州ソロ市市長時代には、(バイクではないけど)自転車に乗って市内を散策しながら市民の声を聞く、庶民派市長として人気を博しました。
いわば二輪車にまたがることは、ジョコウィ大統領のアイコンでもあり、人気の秘訣といっても過言ではない側面があります。
今回の開会式でのパフォーマンスはジョコウィ大統領の人柄を表しつつ、「僕達(インドネシア)の大統領イカスだろ!」という意識を国民が持てるようにしたよく出来た仕掛けだったなぁと感心しました。
このパフォーマンスについては、日本の友人からも筆者宛に「大統領がバイクに乗って登場した!」というラインが来るように、視聴者には結構なインパクトを与えています。
これは国外へのパフォーマンスでのアピールという側面に加えて、国内の人気を取る、という意味でも少なくない意味を持っています。
来年は大統領選挙がありますが、インドネシアではつい最近に来年の大統領選挙への立候補者の締め切りが行われました。
このタイミングで開催されるアジア大会にはジョコウィ政権もかなり力を入れていて、なんとしても成功に導いて、政権の実行能力を示す一端にしたい意向です。
そのために、ずっとデコボコだったジャカルタの目抜き通りのスディルマン通りが急速な勢いで整備されていままでなかった歩道が出来たり、パレンバンではLRT(都市旅客鉄道)も完成しました。
若い国民に向けたイメージ戦略
インドネシアは政治と国民の距離が日本より、とても近いです。
そして、インドネシアの人口は日本の約2倍の約2億5千万人ですが平均年齢は29歳。
平均年齢約45歳の日本と比べるとダントツに若い世代が膨大な人口を締めています。
ジョコウィ大統領もインスタやYoutubeなどを活用していますが、これは日本とは訴えなければいけない層が全然違うことに由来しているからだと考えられます。
今日(2018年8月20日)現在で、ジョコウィ大統領のYoutubeチャンネル登録者数は58万6730人、インスタはなんと1109万人のフォロワーを誇ります!
反して、日本で安倍総理がYoutubeチャンネルを開設したりインスタでこまめに投稿したりしても若い世代で見る人はかなり限られるのではないでしょうか。
以下はジョコウィ大統領のYoutubeチャンネルで、子どもの質問に大統領が直接答えますコーナー。大統領が子どもの素朴な疑問に答えます。
中には漫画NARUTOについて大統領はどう思うか聞く子どももいます笑
このエピソードは252万回再生されており、人気ユーチューバーもびっくりの再生回数です。
上記の動画に見るように、子どもや若い世代に対してSNSを利用しながら、いい印象を与えることはもはやインドネシアの政治家には必須事項といえるでしょう。
2014年の大統領選や、昨年のジャカルタ州知事選でもFBなどのSNSが政治勢力にかなり使われ、そこでの情報がその後の選挙の流れを決めていたといっても過言ではないです。
今回のアジア大会のバイクパフォーマンスは、単に海外向けに庶民派大統領を紹介するという対外的なイメージ戦略だけでなく、国内的にも特に若い世代を中心にイカした大統領だとの認識を再度植えつけることで、大統領選への前哨戦であるイメージ戦略を有利に進めようとする意識がバシバシ感じられました。
バイクの映像はいたるところで流され、それを元に若い世代の国民が勝手に写真や動画を加工してSNS上にアップしています。
インドネシアで大人気の仮面ライダーのオープニング風に加工した映像。
ちなみに韓国のツイッター検索ランキングでジョコウィ大統領のバイクパフォーマンスが検索1位になったとかでもインドネシアで話題に。
こういった画像や動画が、大統領のイメージアップに貢献してくれる。
まんまと大統領府やジョコウィ陣営の策略どおりの流れが、開会式後の数日は起きていたーーーそんな事を勝手に考えていました。
そういった視点で以下の動画を見てもらうと、最初に感じた印象とは違う印象を持ち、動画から色々な意図も読み取れるのではないでしょうか。
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